「地下鉄サリン事件」の被害者は今㊤

2017年2月13日(月)08時34分更新
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『地下鉄サリン事件』を風化させないこと。高橋シズエさん2これは、日本の報道機関が最低限やらなければならない仕事に思える。

 オウム真理教に関する報道が、最近めっきり減ってきた。しかし、オウム信者たちが起こした『地下鉄サリン事件』は、22年を経ようとしている今ですら「終わった」とは言えない。地下鉄の車内や駅構内で、直接被害に遭った人々の日常は、さらに悪化。厳しさを増している。

 事件後、生活に変化があった人ほど、フラッシュバックなどPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状がひどいという。被害者の3割、家族の6割にも関連症状が出ていた。

 先週の土曜日(2017年2月11日)、都内で開かれた『地下鉄サリン事件被害者・家族調査の結果の報告』という研究発表会に出かけた。東京スポーツ新聞社の法務担当時代に自殺報道の研究をしていた頃、僧侶の中下大樹氏を通じて知遇を得た高橋シズヱさん(写真)からお誘いを受けたからだ。

 高橋さんは『地下鉄サリン事件被害者の会』の代表世話人を務める。ご主人の一正さんは霞ヶ関駅の助役として勤務中に事件に巻き込まれ、命を落としている。前代未聞の事件による突然の夫の死。だが、被害者家族である高橋さんは精力的に活動を続けてきた。「事件を風化させてはいけない」。その思いで頑張る姿を見るたびに、感服させられる。

 この日、発表された調査結果は、サリン事件が被害者をさらに厳しい立場へと追い込んでいることを明白に物語っていた。犯罪被害者の二次被害のデータも、重い。慰めているようでいて、慰めになっていない言葉の投げかけによって、さらに傷つけられているケースは少なくないという。 

 具体例が挙げられていたので、紹介しておく。事件で子供を亡くした人に対する「もう一人子供がいて良かったね」という安易な慰め。「世間にはもっと不幸な人がいる」という他人との比較。「早く忘れなさい」「私だったら気が狂うかも」という強くなることを無理強いする言葉。「保険金が入るから良かったね」と無神経なことを言われ、車を買い替えただけで、「子供の命で車を買った」などという中傷の言葉を投げかけられたケースまで紹介された。

 子供を事件で亡くしたケースでは、親の自死念慮率(自ら命を絶ちたいという思いを抱くパーセンテージ)は高くなる。事件から時間が経つほど、加害者に対する感情よりも自責の念が強くなるのも問題だ。たとえば「早く学校に行きなさい」と子供を叱って送り出した後に、乗った電車で事件に巻き込まれた場合「自分が余計なことを言わなければ、あの電車には乗らずに済んだ」と自責の念にさいなまれる。「子供の変化に気付けなかった」と自死遺族が多く陥る感情でもある。

 こうして自分を責めることは、回復を遅らせるどころか、むしろPTSDを悪化させる。「サリン」と周囲から呼ばれたり、警察の聴取や職場や学校での扱いにより傷つけられたケースも多い。あまりにもひどい周囲の反応で、心身ともに状態が悪くなっている人も少なくない。(以下次回=ジャーナリスト・小川 朗)


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