「地下鉄サリン事件」の被害者は今㊦

2017年2月13日(月)08時52分更新

 報道する側はこの事件を忘れず、自戒の念を持って仕事を続けていくべきだと思う。
実は地下鉄サリン事件私も、一連のオウム報道に携わった一人なのだ。
 2005年3月20日午前8時過ぎ。江東区越中島の東京スポーツ編集局で朝デスクの勤務に入っていた。夕刊紙であるため、輪転機が回るまでまだ1時間半ほどの時間があった。
そこに共同通信からの「ピーコ」(音声ニュース)が入る。「日比谷線の茅場町駅で事故の情報があります」との第1報である。すぐに茅場町駅に電話してみると「電車は築地で止まっています。ガス爆発との情報があるのですが、詳しいことは分かりません」との返答だった。

 越中島の編集局から築地は車なら10分程度。とりあえず、カメラマンを現場に飛ばそうと写真部に向かう。そこにちょうど詰めていたのが、Yという20代で女性の写真部員だった。
 「築地で何か起きているみたいだから、ちょっと行ってみてくれる?」軽い気持ちでこう指示したのだが、わずか4時間後には激しい後悔の念にさいなまれることになる。

 Yが無事現場に着き、取材を始めた連絡が入ったとの連絡が写真部に来た。締め切りが近づくにつれ、情報が入り出した。テレビ各局もヘリを飛ばし、新大橋通りの築地駅周辺に緊急車両が並ぶ異常な状況を空から映し出していた。この時点では事件が過去に例を見ない、サリンという毒物を使った同時多発テロであることだとはまだ判明していない。そのためYは築地で、現場の写真を撮影した。取材する者としてはごく当たり前の行動だった。
 しかし自分もそうであったが、現場に行けば視野は狭まる。目の当たりにする状況に圧倒されそうになりながら、何とか自分の頭を冷静に持ちながら取材をするのが精いっぱいになる。昼過ぎになり、社に戻ってきたYは青ざめていた。「ひどい有様でしたよ」と言いながら「何か頭が痛いような気がするんですが」と元気がない。周囲も心配顔になった。

 こちらも気が気ではなかったが、大事には至らなかったようで、本人は暗室に入って仕事を続けていた。後になってサリンという猛毒がまかれていたことを知って、Yの無事に感謝することになる。もし、Yがよりいい写真を撮ろうと”色気“を出して現場に踏み込んでいたら、命の保証はなかった。逆の結果が出ていたら彼女をそこに行かせた自分を責めずには、いられなかったハズだ。

 『地下鉄サリン事件』が起きたことで、一連のオウム事件の中で大きな意味を持つことになった『松本サリン事件』の扱いを見れば、警察、そしてマスコミの情報管理があまりに穴が多かったことがわかる。最も印象が強いのは『松本サリン』におけるKさんの扱いだろう。Kさんがいかにも犯人であるかのような誤った警察の一次情報を、裏も取らずにそのまま垂れ流し、犯人扱いしたマスコミの責任は重い。

 それだけではない。『松本サリン事件』について、オウム真理教施設への一斉捜索が入るとの情報が一部マスコミからオウム側にもれ、これを阻止するために地下鉄サリン事件を起こしたと語る当時の捜査関係者もいる。オウム信者たちもまた、情報を得るためにあらゆる手を使って情報源であるマスコミ関係者にアプローチしていたハズなのだ。

 麻原彰晃の死刑執行にも賛否両論が渦巻き、オウム真理教はいまだに名前を変えて存続している。
そうした中、被害者たちは今もPTSDなどの後遺症に苦しんでいる現実から、
マスコミが目を反らすことは許されない。
 最後に【加害者オウム真理教およびその後継団体への怒り】というテーマのアンケート結果を記して、この記事を終えたい。
死刑を早く執行してほしい・・・・・・・・・53・2%
事件を風化させたくない・・・・・・・・・・72・0%
オウムの後続団体に怒りを感じている・・・・70・7%
(ジャーナリスト・小川 朗)


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コメント数 2件

  1. 高橋シズヱ

    事件後、「もしかしたら自分もあの電車に乗っていたかもしれない」という話をたくさんの人から聞きました。
    誰でも被害に遭う可能性があったテロ事件でした。
    あの当時の警察庁長官だった國松孝次さんの言葉をお借りすれば、「テロ事件が現実味を帯びる今」、忘れてはいけない事件だと思います。
    こうして記事を書いていただきまして有り難いことです。

    投稿日2017年2月14日 AM 10:43

  2. 小川朗

    コメントありがとうございます。
    この事件を忘れてはいけないのはもちろんですし、
    あの時の報道のあり方ももう一度検証し、
    これからに生かしていく必要を痛切に感じます。
    国松長官のインタビューのお話し、今度またお聞かせください。

    投稿日2017年2月15日 AM 6:35

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